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札幌地方裁判所室蘭支部 昭和44年(ワ)43号 判決

原告

鈴木重

ほか一名

被告

遠藤嘉久

ほか一名

主文

被告らは、各自、原告鈴木重に対して金九万七、〇〇〇円、原告星野エミに対して金二九万七、〇〇〇円及び右各金額に対する昭和四四年二月二二日から完済まで年五分の金員を支払え。

原告らその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、原告鈴木重において金二万円、原告星野エミにおいて金五万円の担保を供するときは、その担保の供与を受けた被告に対し、仮に執行することができる。

事実

原告ら訴訟代理人は、「被告らは、各自、原告らに対し、各金一八六万九、〇八七円及び内金一六九万九、一七〇円に対する昭和四四年二月二二日から、内金一六万九、九一七円に対する昭和四五年一〇月三〇日から、各完済まで年五分の全員を支払え。訴訟費用は、被告らの負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、原告らの子である訴外亡鈴木邦夫(以下「被害者」という。)は、昭和四三年七月二日午後五時四五分頃、北海道沙流郡平取町字紫雲古津国道二三七号線道路と北方農道との交差点において、北方から南方に向け、道路を横断していた際、東方から西方に向け、進行して来た被告遠藤の運転する被告高島所有の普通貨物自動車(登録番号室一ゆ二三―二七号、車台番号T四一〇―五六四七九〇号、以下「本件自動車」という。)の前面部に衝突され、頭蓋底骨折、内臓破裂等の傷害を負い、即死した。

二、右事故は、被告遠藤の左記過失により、惹起されたものである。

すなわち、同被告は、本件事故現場にさしかかつた際、たまたま対面進行して来たバスが同所の停留所で乗降客の取扱を終え、発進したのを認めて、右バスの右側面を通過しようとしたが、かかる場合、自動車運転者としては、バスの降客その他歩行者がバスの後方から、道路を横断しようとして、道路に進出して来ることが予想されるから、何時でも急停車できる程度に減速徐行の上、左右前方を注視し、道路を横断する者の有無を確認して進行し、もつて事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのに、これを怠り、漫然、時速約四五粁の速度で本件自動車を運転した過失により、右バスの後方から、左方に道路を横断しようとして出て来た被害者に本件自動車を衝突させ、本件事故が発生したのである。

したがつて、同被告は、民法第七〇九条により、本件事故に基き、原告らに生じた損害を賠償すべき義務がある。

三、また、被告高島は、本件自動車を所有して、これを自己のため、運行の用に供していたものである。

したがつて、同被告は、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)第三条により、本件自動車の運行により、生じた本件事故に基き、原告らに生じた損害を賠償すべき義務がある。

四、原告らは、本件事故により、次の損害を受けた。

(一)  被害者の得べかりし利益の喪失

被害者は、昭和三八年四月三〇日生れ(本件事故当時は満五才二ケ月)の健康な男児であって、なお六四・五七年の余命があり、満二〇才に達したときから、じ後四〇年間、経済活動をし、収入を得ることができるところ、労働大臣官房労働統計調査部刊行にかかる労働統計年報昭和四二年中の新制高校卒業の男子労働者の二〇才から六〇才までの年齢に応じた平均給与額、賞与その他特別給与額、右合計額は、別表(A)、(B)、(C)、(D)欄記載のとおりである。一方、厚生大臣官房統計調査部人口動態統計課発表の人口動態統計によれば、男子の平均初婚年齢は約二七才であるところ、総理府統計局発表の全国消費実態調査報告(昭和三九年度)によれば、人口五万人以上の都市における独身男子の生活費は、その実収入の八割相当であり、また、総理府統計局発表の家計調査年報(昭和四一年度)によれば、人口五万人以上の都市における労働者世帯一世帯一ケ月当りの消費支出額は、別表(E)欄記載のとおりであり、その実収入の約四割相当とみられるから、その年間生活費は、別表(F)欄記載のとおりである。したがつて、被害者は、右年収合計額から右生活費を控除した純年収額として、別表(G)欄記載のとおりの金額を得ることができたものと予想されるから、その金額からホフマン式計算法(満五才から別表各年齢グループの各最終の年まで毎の複式計算法)による年五分の中間利息を控除した金六二九万九、八三八円(別表(H)欄記載)は、被害者が本件事故により、受けた損害である。

しかして、原告らは、被害者の実父母として、右損害賠償請求権を相続したので、原告らは、右金額から原告らが受領した自賠法による自動車損害賠償責任保険金(以下「自賠責保険金」という。)三〇〇万円を控除した残額金三二九万九、八三八円の二分の一に相当する金一六四万九、九一九円宛の請求権を有する。

(二)  葬式費用

原告らは、被害者の死亡により、少なくとも合計金九万三、〇〇〇円の葬式費用の支出をし、同額の損害を受けたから、それぞれ、その二分の一に相当する金四万六、五〇〇円宛の請求権を有する。

(三)  慰藉料

原告らが被害者を失つたことによる精神的苦痛を金額に見積るとすれば、各自、金一五〇万円が相当である。

(四)  弁護士費用

原告らは、自ら訴訟を追行できないので、昭和四四年二月一二日、札幌弁護士会所属弁護士中島一郎に対し、右(一)ないし(三)の各損害賠償請求権について、被告らを相手方として、訴を提起することを委任し、同日、同弁護士に対し、手数料として、金一六万九、九一七円宛を支払う旨を約定した。

五、よつて、原告らは、被告らに対し、それぞれ、右四の(一)ないし(四)の各損害金合計金三三六万六、三三六円のうち、金一八六万九、〇八七円及び内金一六九万九、一七〇円(右四の(四)の損害金を控除した金員)に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四四年二月二二日から、右四の(四)の損害金一六万九、九一七円に対する判決言渡の日である昭和四五年一〇月三〇日から、各完済まで民法所定の年五分の遅延損害金を連帯して支払うことを求める。

と述べ、再答弁として、被告らの抗弁事実中、

(一)のうち、本件事故について、被告遠藤に過失がなかつたとの点は否認する。

(二)は否認する。

(三)は認める。

(四)は争う。

と述べ、

立証として、〔証拠略〕を提出し、原告星野エミ本人尋問の結果を援用し、〔証拠略〕の成立は認めると述べた。

被告ら訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、原告ら主張の請求原因事実中、

一のうち、被告遠藤がその運転する本件自動車の前面部を被害者に衝突させたことは否認するが、その余の点は認める。

二は否認する。

三の第一段の事実は認めるが、第二段の事実は否認する。

四の(一)のうち、被害者が原告らの子であること、原告らがその主張の自賠責保険金三〇〇万円を受領したことは認めるが、その余の点は不知。なお、原告らが受領した右保険金は、金三〇〇万六、〇〇〇円である。

四の(二)のうち、原告らが葬式費用として、金九万三、〇〇〇円を支出したことは認めるが、その余の点は否認する。

四の(三)、(四)は不知

と述べ、被告高島の抗弁として、

(一)  本件事故は、被害者側の過失により、生じたもので、被告らは、本件自動車の運行に関し、注意を怠らず、また、本件自動車には構造上の欠陥または機能の障害がなかつたから、被告高島には損害賠償の責任がない。

すなわち、被害者は、本件事故現場を横断するに際し、本件自動車に対面進行して来たバスの後方の道路下の土手から、本件自動車の進路に右方から左方に向って、斜めに飛び出して来たため、本件自動車の右側運転席後部荷台アングル尖端下部に接触したものであり、本件事故は、被害者において、左右の安全を十分確認しなかった過失により、生じたものである。しかして、被害者は、右バスが停留所を発進して、一四、五米進行した後、その後方から、右のように道路上に飛び出したものであり、しかも、道路の右脇側は雑草が繁茂し、被害者がその陰となつていたため、被告遠藤は、車両の運転者としての注意義務を尽くしていたが、本件事故の直前まで被害者を確認できず、本件事故の発生を予見し、回避することができなかつたのである。さらに、本件事故現場付近は、丁字型交差点であるが、その標識はなく、交差点であることも右のように繁茂している雑草や右バスの陰となつて、確認できなかつたので、被告遠藤としては、道路交通法第四二条に違反したものでもない。

したがつて、原告らの被告高島に対する本訴請求は、失当である。と述べ、被告らの共通の抗弁として、

(二)  仮に被告らが原告らに生じた損害を賠償すべき義務があつたとしても、昭和四三年一二月頃、原告らと被告らとの間に、原告らは、自賠責保険金の給付を受け、被告らに対しては、本件事故に基く損害賠償請求は一切しない旨の和解契約が成立した。したがつて、右契約により、原告らと被告らとの間の本件事故に関する一切の紛争は解決されたから、原告らの被告らに対する本訴請求は、失当である。

(三)  仮に右主張が理由がないとしても、被告らは、本件事故後、原告らに対し、葬式費用による損害金九万三、〇〇〇円を支払つたから、原告らの右損害賠償請求権は、消滅した。したがつて、原告らの被告らに対する右請求は、失当である。

(四)  仮に右各主張が理由がなく、被告らが原告らに対し、何らかの損害賠償義務があるとしても、原告らにも過失がある。すなわち、原告らは、被害者の両親として、その監護をする義務があるものであるところ、その監護上、被害者が交通量の大きい国道である本件事故現場を監護者等の附添もなく横断することは危険であることを同人に注意し、これを阻止すべきであるのに、これをしなかつたことは、原告らが右監護義務を怠つたものであり、このために、本件事故が発生したのである。したがつて、被告らは、被告らの損害賠償の額の算定について、過失相殺を主張する。

と述べた。

〔証拠関係略〕

理由

一、原告ら主張の一の事実のうち、被害者が本件自動車の前面部に衝突されたとの点を除くその余の事実は、被告らの認めるところである。

また、〔証拠略〕を総合すれば、被害者は、本件自動車の右側運転席付近に接触し、その後部荷台の鉄製角に頭部を衝突された上、その右側後輪に巻きこまれたことが認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

二、次に、原告ら主張の三の第一段の事実は、被告らの認めるところである。

三、そこで、原告ら主張の二の事実及び被告高島の(一)の抗弁について、判断する。

〔証拠略〕を総合すれば、本件事故現場は、国道第二三七号線道路上であり、その付近において、車道幅員は約八・〇〇米で、その中央には中央線が画され、コンクリート舗装の東西に一直線の平坦な道路であり、道路上の見通しは良好であること、本件事故現場において、右国道には北方から幅員五・五〇米の非舗装道路(農道)が丁字型に交差していること、右国道の北側には道路から約二・〇〇米低い畑地があり、また、道路から畑地に至る路面には、本件事故当時、高さ約四〇ないし五〇糎の草が茂っていたこと、本件自動車と被害者との衝突地点は、中央線から本件自動車の進行方向に向つて、左方に一・一〇米離れた地点であることが認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

右認定の事実と〔証拠略〕を総合すれば、被告遠藤は、原木を積載した本件自動車を運転して、本件事故現場付近を時速約五〇粁の速度で東方から西方に向けて、進行中、たまたま対面進行して来て、同所の停留所で停車して、乗降客の取扱を終え、発進した直後のバスの右側面を自車の時速を約四五粁に減速して、通過し、これを終えて、加速しようとした際、同所の北側道路下の畑地から、道路上に上がつて来た被害者が突然、右前方約五・五〇米の地点から中央線を越えて、本件自動車の進行路上に小走りに飛び出して来るのを発見し、危険を感じて、急制動を施したが、間に合わず、約八米進行した後、本件自動車の右側面運転席付近を被害者に接触させ、さらに、その後部荷台の角に被害者を衝突させたこと、なお、本件事故現場に北方から丁字型に交差している右農道は、右バスの後方にあり、被害者は、右農道付近から出て、本件事故現場を本件自動車の進行方向に向って、右方から左方に横断しようとしていたことが認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

ところで、自動車の運転者は、自車の進路と反対方向に向って、停車し、発進したバスの右側を通過しようとする場合には、降車客や歩行者などが道路を横断しようとして、不用意にも突然、バスの後方から、自動車の道路に向つて、進出して来ることが予想されるから予め減速し、何時でも急停車できるように除行し、もつて、事故の発生を未然に防止すべき注意義務があると解すべきであり、特に本件事故現場のように、バスの後方から、道路が丁字型に交差している場所にあつては、右の注意義務は、一層強く要求されるものといわなければならない。しかして、自動車運転者がこの義務を怠つて、事故が発生した以上、道路横断者の不注意を理由に、自己の責任を免れることはできない。ところで、被告遠藤は、すでに判示したように、本件自動車を運転して、時速約四五粁の速度で、乗降客の取扱を終えて発進した直後のバスの右側面を通過した際、右の注意義務を怠り、バスの後方から、道路を横断する者がないと軽信し、徐行もせず、漫然進行したため、被害者を発見して、急制動の措置をとつたが、間に合わず、本件自動車を被害者に衝突させるに至つたものであるから、被害者の不注意は別として、本件事故の発生は、同被告の過失がその一因をなすものといわなければならない。

以上の次第であるから、被告遠藤は、民法第七〇九条により、被告高島は、自賠法第三条により、原告らに生じた損害を賠償すべき義務があるものといわなければならない。

四、次に、被告らの(二)の抗弁について、判断するのに、これにそう被告本人高島輝の供述部分は、後記証拠に対比して、たやすく信用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はなく、かえって、原告本人星野エミの供述によれば、原告らは、被告らとの間で、被告ら主張のような和解契約をした事実のないことが認められる。したがつて、被告らの右抗弁は、理由がない。

五、次に、被告らの(四)の抗弁について、判断するのに、すでに判示したところと〔証拠略〕を総合すれば、原告星野は、本件事故当時、自宅から徒歩で約五分位離れた本件事故現場北側の畑地で遊んでいた被害者を帰宅させるため、被害者の兄にあたる訴外鈴木広志(当時一〇才)及び同鈴木弘昭(当時八才)の二人を迎えにやったこと、ところで、被害者は右兄二人から、帰宅するようにいわれた際、同人らと同行することなく、同人らが帰宅した後、ひとりで帰途につき、その途中、本件事故現場を、乗降客の取扱を終えて、発進した直後のバスの後方から、横断しようとして、小走りに道路上に飛び出したため、被告車と衝突し、本件事故の発生をみるに至ったことが認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

右事実によれば、五才を過ぎて間もない被害者に危険に際しての適宜の処置を期待できないところであり、被害者が同行者もないのに、本件事故現場を監護者の附添もなく、歩行横断するのに任せていた点に親権者たる原告らに監護義務を怠つた過失が存し、その過失が本件事故発生の一因となつたものといわざるを得ない。

しかして、被害者が事理を弁護する能力を有しない者であっても、親権者たる原告らに右のような過失があるときは、同人の死亡による損害額の算定について、これを斟酌することができるものと解するのが相当であり、原告らの過失と前示認定の被告遠藤の過失とを対比すると、双方の過失の場合は、ほぼ半々であると認めるのが相当である。

六、そこで、本件事故により、原告らに生じた損害について、判断する。

(一)  被害者の得べかりし利益の喪失

〔証拠略〕を総合すれば、被害者は、昭和三八年四月三〇日生れで、本件事故当時、満五才二ケ月の健康に成育していた男児であつたことが認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

しかして、厚生省大臣官房総計調査部刊行の第一〇回生命表によれば、満五才の男子の平均余命は六二・四五年であることが当裁判所に顕著である。そして、原告本人星野エミの供述によれば、被害者は、もし本件事故がなければ、右の同年齢の者の平均余命程度生存し、少くとも一五年間を経過した後二〇才から四〇年間にわたり、職業について、収入を得たであろうことが推認できる。

ところで、総理府統計局編纂の昭和四四年度日本統計年鑑によれば、昭和四二年度における企業規模五人から二九人までの事業所の全産業常用男子労働者で、二〇才から六〇才までの者に対し、毎月支給される給与額による平均月収額は、金四万三、二三六円であることが当裁判所に顕著であるから、右収入からこれを得るのに必要な生活費を五割程度とみて、右生活費を控除した残額金二万一、六一八円を基礎とし、右稼働可能の四〇年分について、ホフマン式計算法により、年五分の中間利息を年毎に控除して得た金三九一万四、九七二円(円未満切捨)が被害者の死亡時における得べかりし総収入の現価である(その算式は、

21,618円×12×(55年の係数260,723-15年の係数109,808)=3,914,972円

である。なお、中間利息控除の計算上、被害者を満五才として、計算した。)

もつとも、年少年の場合、初任給は、平均収入よりも低いが、次第に、収入は、上昇するのが通常であり、また、これを得るのに必要な生活費は、若年の場合は、収入に比し、生活費の占める割合が多く、結婚し、家族構成が増加するに従つて、世帯主としての生活費の額は、順次、高額化することが予想されるが、他面、収入の上昇も予想されるので、右収入に対する割合は減少して行く傾向にあることは明らかであるが、元来、将来いかなる職業につき、いかなる家庭生活を営むかの予想が困難である者について、将来の純収入を推計しようとする場合、仮に複雑な推定や計算をしても、その正確を期し難いから、右のように、統計上の平均値を基礎として、算出した額と同程度のものを被害者の純収入とみることが控え目な数値であって、しかも、高度の蓋然性を有するものというべきである。

したがつて、被害者は、本件事故により、金三九一万四、九七二円の損害を受けたものである。しかして、右損害について、原告らの前示過失を斟酌し、被告らが連帯して賠償すべき金額を金二〇〇万円と定める。

しかして、原告らが被害者の両親であることは、被告らの認めるところであり、また、原告本人星野エミの供述によれば、被害者の相続人は、直系尊属である原告らのみであることが認められるから、原告らは、相続により、右損害賠償請求権の二分の一である各金一〇〇万円宛を取得したものというべきである。

(二)  葬式費用

原告らが被害者の葬式費用として、少くとも金九万三、〇〇〇円の支出をしたことは、被告らの認めるところであるから、原告らは、同額の損害を受けたものというべきである。しかして、右損害について、原告らの前示過失を斟酌し、被告らが連帯して賠償すべき金額を金五万円と定める。

そこで、被告らの(三)の抗弁について、判断するのに、右抗弁事実は、原告らの認めるところであるから、原告らの右損害賠償請求権は、弁済により、消滅したものというべきである。したがつて、原告の四の(二)の主張は、理由がない。

(三)  慰謝料

〔証拠略〕を総合すれば、原告らは、昭和二八年頃、事実上の婚姻をして、同褄し、昭和三六年五月二六日、婚姻の届出をしたもので、その間昭和二九年頃にふみあき(生後間もなく死亡した。)、昭和三三年に広志、昭和三五年に弘昭(右両名は、戸籍上は原告星野の子で、原告鈴木の養子として、登載されている。)、昭和三八年四月三〇日に被害者(戸籍上は原告らの長男として、登載されている。)、昭和四〇年に敏明(戸籍上は原告らの二男として、登載されている。)をもうけ、右子供らと同居して来たこと、ところで、原告鈴木は、昭和四一年頃、近隣の女性と内縁関係を結び、原告星野、被害者を含む右四人の子供を残して、苫小牧市に別居するに至り、このため、原告らは、昭和四三年一〇月七日、協議離婚の届出をしたが、右別居後は、原告星野において、右四人の子供を養育監護して来たこと、しかして、原告らは、本件事故により、被害者の生命を奪われ、健康な同人の将来に対して抱いていた希望を断たれ、深い精神的苦痛を受けていることが認められる。右事実と被害者の年齢、本件事故の態様、原告らの前示過失、その他諸般の事情を斟酌すれば、被告らが連帯して支払うべき慰謝料の額は、原告鈴木について金六〇万円、原告星野について金八〇万円をもつて、相当であると認められる。

(四)  弁護士費用

原告らが原告ら訴訟代理人弁護士中島一郎に対し、本訴の提起と追行を委任したことは、当裁判所に顕著である。

しかし、原告らがその主張の弁護士費用を負担したことを認めるに足りる証拠は全くないから、右事実の存在を前提とする原告らの四の(四)の主張は、理由がない。

(五)  自賠責保険金の受領

原告らが自賠責保険金三〇〇万円の支払を受けたことは、原告らの自認するところである。また、原告本人星野エミ、被告本人高島輝の各供述を総合すれば、原告らは、自賠責保険金として、右の外金六、〇〇〇円の支払を受けたことが認められるので、右合計金三〇〇万六、〇〇〇円の二分の一に相当する金一五〇万三、〇〇〇円宛は、それぞれ、原告らの右各損害額から控除されるべきものである。

七、してみれば、原告鈴木の本訴請求は、被告らに対し、各自、右六の(一)の金一〇〇万、(三)の金六〇万円、以上合計金一六〇万円から、右六の(五)の自賠責保険金一五〇万三、〇〇〇円を控除した金九万七、〇〇〇円及びこれに対する本件不法行為の後であつて、その請求にかかる昭和四四年二月二二日から完済に至るまで民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求める部分、原告星野の本訴請求は、被告らに対し、各自、右六の(一)の金一〇〇万円、(三)の金八〇万円、以上合計金一八〇万円から、右六の(五)の自賠責保険金一五〇万三、〇〇〇円を控除した金二九万七、〇〇〇円及びこれに対する本件不法行為の後であつて、その請求にかかる昭和四四年二月二二日から完済に至るまで民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求める部分に限り、それぞれ、正当として、認容し、その余の部分は、失当として、棄却されるべきである。

よつて、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条、第九二条本文、第九三条第一項本文を、仮執行の宣言について、同法第一九六条を適用して、主文のとおり、判決する。

(裁判官 佐藤栄一)

別表 被害者の得べかりし利益明細表

〈省略〉

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